歩く銀杏 (5) 番外 前編

歩く銀杏 (5) 番外は、長文のため前編と後編に分けさせていただいた。

<引用ここから>

* 相場の「まさか」道について

相場(というより金融全般)の世界には、かの悪名高い「まさか」という、坂道があります。

ふつう、「魔坂」と書き、「まさかあの株が」とか、「まさかここまで下がるなんて」と、人々に悲鳴を上げさせながら、もはや転がることしかなくなってしまう魔の坂道です。

人生も同じ事さ、と思われるかもしれませんが、金融の世界、ほとんどこの坂道だけで成り立っているといっても過言ではありません。

人生には時々、小春日和の秋桜(コスモス)街道などもありますが、金融の世界は常に坂道です。

何故かといえば、本来金融というものが、実業に対する虚業の世界であり、陰画の世界であり、ネガであり、影であり、負の世界であるというところから来ています。

女性になどもてたこともない、さえないヒゲの中年男、たとえわが身は路傍の石くれの如きであろうとも、前途洋洋たる若き人々に、どんなに嫌がられようとも、どんなにアクビをされようとも、せめてこの一言、石なお叫ばん、言っておかなければならないのです。

また、小部屋のオヤジの、大げさなホラ話が始まったのです。

それは、

金融の世界は、他の実業の世界とはまったく異なったルールで動いている
金融の世界には、他の実業の世界とはまったく異なったルールがある
だから
実業の世界の成功体験は、金融の世界では何の役にも立たない

ということです。

何を大げさな、と思われるかもしれませんが、相場の失敗はすべてこれが原因で起こっているのです。

絶対に覚えていてください。

古来から証券界というものは、実業の世界で成功した人々が自身満々やってきて、「まさか」 と叫んで去っていく世界でした。

彼等が何故自信満々なのかと言うと、彼等は経済界での成功者であり、金融の世界も同じ経済界だから簡単なものだと誤解してしまったからなのです。

バブルとは、そういった人々が多かった時期のことであり、実業の世界の成功者が少ないと金融の世界も不況になります。

スポーツにたとえれば、野球とサッカーの違いどころではとてもなく、野球と相撲ほどもある違いなのです。 今日突然巨人軍に入団した貴乃花は、いったいどこを守ればよいのでしょうか?

どうしてそういうことが起こるかと言うと、成功する条件がまったく異なっているからなのです。

実業の世界では、明るく、行動的で、人脈が広く、シャープな頭脳、素直、思いやりなどなどなど、いわゆる、陽性な人々が成功していきます。(例外的な事例は常にありますので、無視します)

世の中の80%は、そういった人々の天下になっています。

しかし人間には、どうしても陽性になれない人もあり、また他人と同じなのはイヤダとか、偏屈、ひとみしり、なまけもの(私はこれです、超、がつきます)その他、いわゆる陽の世界から、はじき出される人々がいます。

そこで神(火水)様は、ちゃんとそういった人々のための世界を、20%用意してくださったのです。

それが文学、絵画、音楽、映画、そして宗教、(本物の)学問、等といった世界であり、あるい は発明発見、ファッション他、何らかの創造に関わる世界であり、実は金融の世界もこの領域に属するのです。(銀行員や証券マンや保険のおばちゃんは、単なる事務員ですから除きます)

明るく、成績優秀、スポーツマンの好青年、家庭は裕福両親円満、といった青年は、人生に2 度来る軽い失望と1度の深刻な挫折を乗り越えられさえすれば(最も、彼等は挫折に弱いところがあるんですがね)、80%の世界で確実にステップアップしていくことでしょう。

しかしそんな彼が、もし小説を書きたいなどという願いにとりつかれたとしたなら(現実には余りありませんけれど)、彼の幸福な人生経験は、最悪な経験に凍りついてしまいます。

小説を書くには、逆に、イジメ、登校拒否、両親の離婚などの不幸な経験が、正に至福の経験へと昇華されるのです。

相場とは本来、実業の世界の日の当たる坂道から締め出された人々が、その恨みを込めて 孤独な戦いを挑む、ルサンチマンの戦場なのです。

そうした意味では新興宗教と似通ったところもあり、かの有名なOクラブが元来宗教の仲間であったことや、また、ご存知、究極の相場師E氏が、商業高校出のうだつのあがらないサラリーマンとしてついに一度として役職にはつけなかったことなどが、いみじくも実証しているといってよいのです。

金融の世界は実業の世界とは180度異なった法則のもとに成立している世界なのです。

「魔坂」とは、実は「真逆(まさか)」であり、実業の世界の常識の、逆こそが真である、という世界なのです。

<引用ここまで>

(つづく)

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