一文無し(番外編)

2010/9/13 (月)

これはグァテマラを旅していた時に、本当に起きたことだ。

この旅は私の妄想の旅なので、お金を盗まれ辛い思いをしたことなど書く必要はないのだが、外国で一文無しになるなど、めったにできるものではない貴重な体験だったのであえて書きたい。

また、不幸にも私のようにお金をほとんど盗まれた時の対処として、思い出してもらえたらいいと思っている。

一文無しになってしまった。パスポートを含む貴重品を全て盗まれたのだ。残されたのは大きなバックパックの中にある服と着替えだけ。

それはある朝、グアテマラ・シティーのバスターミナルのバスの中で起こった。

ホンジュラスとの国境近くの町チキムラ行きのチケットを購入し、服などの盗まれても構わないものが入ったバックパックをバスのトランクに入れ、パスポートやお金(米ドル)等の貴重品を小さなナップサックに入れ手荷物としてバスに乗った。

バスに入ると私よりも早く一人の男がバスの中で何か作業をしていた。私はバスの車掌か何かがバスの掃除でもしているのだろうと気にも留めないでいた。

するとその男がしきりに荷物を棚の上に置けと言う、自分で持つから大丈夫だと言ったが、あまりにしつこく言うので、そんな規則もあるのかと頭上の棚に置いた。

出発まで何をするでもなくくつろいでいた。しばらくして何かをナップサックから取り出そうと上の棚に手をやると置いたはずのナップサックが無くなっていた。男はすでに立ち去っていた。

サーと血の気が引いた。そして盗まれたと気づいた。あの男があんなに執拗にナップサックを上の棚に置けという意味がわかった。

しかし、もうどうすることもできない。

しばらくこの現実をどのように解釈していいか解らなかった。これは何かの間違いだ。悪夢よ早く去ってくれ。バスを降りる気力もなく、ずーと中にいた。

しばらくすると他の乗客も乗り込んできて運転手まで乗り込んできた。このままここにいたらまずいと、とりあえずトランクに入れてあったバックパックを取り出しバスの待合室で心と頭の整理をしていた。

手持ちのお金はわずか80円相当の現地通貨しか持っていなかった。

盗まれたことに文句を言っても始まらないことは解っていたが、チケット売り場に行って「なぜ泥棒がバスに乗っているんだ」と文句を言った、が案の定相手にされなかった。

とりあえず町に出て、これから何をするべきか考えていた。手持ちのお金はわずか80円相当の現地通貨だ。

パスポートを盗まれたのでこの国から出ることもできない。

やはり大使館か?

しかし、場所が分からない。

しばらく歩いていると日本人に会い、大使館の住所と行き方を教えてもらった。

早速、市内バスで大使館に向かった。手持ちの80円で行ける範囲内に大使館があってよかった。

これで本当の一文無しだ。

不幸中の幸いは、まだあった。

それはグアテマラの首都にいたこと平日であったこと、そしてこんなこともあろうかと500ドルのお金をトラベラーズ・チェックにしておいたことだ。

日本大使館に着き、機関銃をもったガードマンにスペイン語で事情を説明すると日本人を呼んでくれた。

現れたのは大使館の事務の仕事をしているという若い女性だった。事情を説明し、所持金がわずかしかないと話すと当座のお金として200ドルを貸してくれた。ありがたい話だ。

これでしばらくは生きていけそうだ。

早速パスポートの再発行の手続きを行った。

日本での身許確認をしなければならないため、再発行にはしばらく時間がかかるそうだ。

その間に盗まれたトラベラーズチェックを再発行しなければならない。日本大使館でVISAグアテマラ支店の住所を調べ早速向かった。

「大使館なんて何もしてくれないよ」と聞いていたが、こんなにも親切だとは思わなかった。

地獄に仏とはこのことだ。

手荷物とは別のバックパックに入れておいたおかげで、トラベラーズチェックの控えは無事だった。もしトラベラーズチェック本券と一緒に盗まれていたら、再発行は無理だったろう。

無事トラベラーズチェックを再発行してもらい、大使館から借りた200ドルとしばらくの生活費を現金化した。

次に警察に行った。

海外旅行保険で携行品の保険を貰うには、盗難に遭ったことを証明する現地警察の書類が必要だったからだ。

グアテマラの警察だけあって何をするにも遅い。かなり待たされたが事情を説明し、やっと書類を書いて貰えることになった。書類は次の日に取りに来いと言う。

スペイン語をしゃべれてよかった。

大使館に戻り、借りた200ドルを返した。その日は昨日泊っていたホテルに泊った。

今日はいろいろなことがあった、お金を盗まれ、大使館に行って、警察にも行った。とても疲れた。

明日はグアテマラの入国管理官に行かなければならない。

次の朝、日本大使館に行くとパスポートができていた。

さすが日本、早い。再発行は無料だった。

早速、パスポートをもって入国管理官に行った。

入国管理官で入国のスタンプを押して貰わないとグアテマラを出国する時に問題があるそうだ。入国スタンプがないということは、密入国したのと同じなので出国時にかなりもめると言うことだ。

しかし、その入国管理官の仕事の遅さは半端ではなかった。昨日行った警察以上だった。

ただスタンプを押すだけで5~6時間も待たされるとは。挙句の果てには「お前の入国の記録がない」とまで言われてしまった。

そんなことはない入国のお金も払ったし、入国の書類もちゃんと書いたと説明したが無駄だった。さすがに私も喧嘩腰になってしまった。

しかし、ここで係官を怒らせても仕方ないと、5ドルほど渡しやっとスタンプを押して貰った。今まで押さないと言っていたのは、何だったのだろう?

これが発展途上国のお役所仕事だ。全てが遅いし、いい加減だ。

日本であり得るだろうか、入国の記録がないなんて、賄賂を取るなんて。末端の政府機関である警察署や出入国管理官がこんな感じではグアテマラ政府もこんな感じなのだろう。

こう見ると日本は素晴らしい国だと実感する。

優秀な警察官のおかげで治安は良いし、役所もきっちり仕事をこなすし、決して賄賂など取らない。大使館員もちゃんと仕事をこなす。

こういうところが先進国と発展途上国を分けるところなのだろう。

おしまい。

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10/09/09     350-
10/09/09     -350

株価は依然、ブレイクせず。

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